判断のOS、バグリスト、デバッガー
3冊の本を同時に読んでいる。Daniel Kahnemanの『Thinking, Fast and Slow』、Tetlock & Gardnerの『超予測力』、Judea Pearlの『因果推論の科学』。どれも分厚い。棚に並んでいるジャンルもバラバラだ。Kahnemanは認知心理学、Tetlockは政治学と予測科学、Pearlは統計学と哲学。普通、この3冊を同時に手に取る人はあまりいないと思う。
だが重ねてみると、1枚の図面になる。
Kahnemanが扱っているのは「人間の判断がどう歪むか」。ノーベル経済学賞を心理学者が取るという事件を起こした人で、人間の思考を「速い思考(システム1)」と「遅い思考(システム2)」に分けて、なぜ賢い人でも愚かな判断をするのかを実験で示し続けた。
Tetlockが扱っているのは「不確実な未来をどう予測するか」。専門家の予測精度がチンパンジーのダーツ投げとほぼ同じだったという絶望的な研究結果を出した後、それでも驚異的に当てる「超予測者」が存在することを発見し、彼らの思考法を解剖した。
Pearlが扱っているのは「世界の因果構造をどう読むか」。統計学が長年タブーにしてきた「なぜ?」という問いに、数学的な道具を与えた人だ。「相関関係は因果関係ではない」——この呪文を唱えるだけで思考停止してきた科学の歴史に、因果ダイアグラムという武器で殴り込んだ。
3冊を自分なりに整理するとこうなる。因果推論は世界を読むためのOS。認知バイアスはそのOSに最初から入っているバグリスト。超予測力はバグを踏んでも致命傷にしないデバッガー。OSがなければ世界は読めない。バグリストがなければ自分のエラーに気づけない。デバッガーがなければ、エラーに気づいても修正できない。3つ揃って初めて「判断」というプログラムがまともに走る。
まだ読み終えていない。読み終えてから書くのが普通だと思うが、自分は読みながら書く方を選ぶ。完成した理解より、揺れている途中の理解の方が正直だと思うからだ。